捨てられないもの
砂木
雨という予報で
雨合羽を着込んでの
葉取りの作業と
覚悟は決めていたのだが
袖口をカバーしたつもりでも
やがてしみこんでくる雨水
顔に落ちる雫に
少しづつ体温が冷える
まだ これから熟す
林檎のまわりの葉をすべて落とし
枝の下や葉の下の色づかない部分に
太陽の光があたるように
軽くねじって位置をずらす
ひとつ ひとつ
指先に集中して もうでている
来年の芽を欠かないように気をつける
芽は葉に覆われた 枝先にある
気づかずに摘んでしまったら
来年の実は実らない
かすかなふくらみを
林檎の木に たくし
雨の鎖につながれたような気分で
作業をしていると
静けさと共に
こんこんと陽が葉の間に射す
急に視界が明るくなり
晴れ間だと気づく
諦めていたものがあらわれたようで
背中まで青空に入ったような
嬉しさに唇もなごむが
お天道様は見捨てないなどと喜んでいると
また雲は灰色を濃くして
容赦なく雨粒が 合羽の上からバラバラと叩く
それでも 晴れてくれた一瞬に
救いを信じ
失っていくものは未来にしかない
今はまだ 失っていないことに
気づいて立ちたい
はしごの上に上っていくと
空に近づく
でもまだ雲にはならないから
眼を開く