世界はその日に向かって
霜天

壁に残る跡。ひとつ、ふたつ手を叩いて。軽い縁取りで足跡を残しながら進める日は、きっと幸せなはずで。迷うように降り注ぐ朝に、世界はその日に向かって。


壁に残る跡、弾痕。触れたくなりそうな光を残して。爆発する、声が波になって、押し流される部屋には、白い椅子がいくつも並んで。いつかはかたちになりそうな夢に、誰かが触れるのを焦がれている。空からはいつも「明日」が降ってきて、「昨日」を押し流してしまう。それがその街の全てで、あなたたち、が、そこにいる証で。弾痕、いつも触れたくなりそうな光を残して、音が、声が、炸裂する音が。


十年前にも。
十年後にも。
街に流れる歌は変わらずに愛を叫んでいるはずで。
僕は変わらずにそれを否定しているはずで。
いつも変わらない日々が。
皮膚の下を循環する円のように規則正しい世界が。
全て、全て、その日に向かって。


歩いている。それは歩いている。いつからか歩いている。歓声のようなもの、手を叩いて。銃声の横で、気付いているようで、気付かない振りをして。迎え入れる、手を叩いて。銃声の裏で、沈んでいく夕日は綺麗で。それでも上を向いて、手を広げて、あなたは。世界の広さを測ろうとする、見える限りの空で。銃声の影で、待ち構える。こたえはいつからか歩いていて、受け取ろうとする、歓声のような、もの。その手は落してしまって、夕日は零れてしまって。


「僕らは固まろうとするから痛いのかもしれない」
なんて、点線をなぞるように、それだけを言い残して。
光は光にしかならずに、歓声は点となって残った。
壁に残る跡を君は抱きしめて。
十年前に。
十年後に。
世界はその日に向かって。


自由詩 世界はその日に向かって Copyright 霜天 2007-10-21 02:27:09
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