水深浴
A道化




どく、どく、と
森と、甲虫を熱くした樹液の脈拍の
どく、
夏の最後の一拍、
の響き終わったあとの静けさが
そっと割れて、孵る、
リ…、ひとつ、
生まれたての、震える鈴が
震えながら虫であることに気付いてゆくとき
夜の底は
遍く薄く音楽に潤む


ねえ、あなた、足を浸そう


リ…、リ…、リ…、
ひとつ、ふたつ、みっつ、
ほら、
夜が
一枚ずつ熱を失ってゆくにつれ
音楽はそれを追うように
我を忘れず、鈴であったことも忘れず
ひんやりと立ちのぼる


ねえ、あなた、足を浸そう


リ…、リ…、リ…、
とお、ひゃく、せん、
子供であることをやめても
迷子であることはやめられずにいるわたしたち
測るのではなく
感じるのだよ、水深を、水深を、ほら、
足から体へ立ちのぼる音楽の水深の、ああ、この感覚。


この感覚。
今は、それを居場所として
ただ、目を伏せて立ち尽くせばいいよね


2007.10.18.


自由詩 水深浴 Copyright A道化 2007-10-18 13:09:06
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