崩れかけた熱情
狩心

着飾った女が、艶めかしい足で
ズタボロの男を、誘拐した
私の中身になってと言って
二人はひとつになった/
―― それと同じ時代、同じ場所で
中身が溢れるほどの女と男が
激しい海にふたり彷徨ったが
ついに1つには成れなかった ――

ふたつのものが1つになるには
空白が、必要だった
わたしは二つの物語を教訓に
自らの中身を | 少しずつ消していった

中身が溢れていた場所に
 適度に空白ができた
その二つの世界では
 常に戦いが行われており
それが均衡を保った

青い地球の大気の中に
人々は生きていて
海の中に記憶を/落としていった

大気汚染が進み/地球の温度も上昇してきた
息を吸う事ももはや苦しく
海は熱せられ | 少しずつ、蒸発していく

この地球が/
 完全に空白になったら
わたしたちはズタボロの男を捜さなければならない
しかしその男は
着飾った私たちを、望まないだろう

着飾った女が
また別のズタボロの男を地の果てへ
連れ去り、引き摺り下ろし、消化した
世界はまた
/大切なものを失っていく

ひとつのこころ
誰も知らない場所で
戦いが行われていて
そこにのみ | 文化と命があった
体中に監視カメラが、
設置されているこの世界では
―― 誰も会話をしなくなる、時の呟き
―― 誰も海を愛さなくなる、時の涙

中身が溢れるほどだった女と男が
 適度な空白を経て
激しい海をふたり思い出していた/
わたしたちはこれから、大気圏に突入して
真っ赤に、燃え上がると思う
 そこに青い地球はない
そのとき初めて、空白が
 声を持ち始める・・・

坑道の中で、一人の老人が
鉱物を掘り起こそうとしていた
硬い壁は1つの人生だと言って
それ以外の言葉を語らず
ただ黙々と削岩していた

宇宙に漂う隕石が
誰かの手によって、削られたものだとしたら
それが誰の手であったか
確めてみたいとは、思わないか

とんとん、とんとん、
誰かがノックする、音が聞こえる
とんとん、とんとん、
母親が子供に、料理を作る音が聞こえる
―― 今はどんな音も聞き逃さない
崩れかけた、熱情の中で

夢 、 吐息 、 温められた心 、 畑に立つ案山子に/キスをする/
朝 、 光の粒子/舞い上がった 、その すべてに――









自由詩 崩れかけた熱情 Copyright 狩心 2007-10-18 10:20:15
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