レールの上
結城 森士

電車の窓の向こう側の、外の風景のその先
右から左へと過ぎ去っていった心象の中に
少年の頃の自分が口をパクパクさせて泳いでいる
僕は餌なんか持っていない、それなのに
少年の頃の自分が口をパクパクさせて付いてくる

今僕が、電車の中で口をパクパクさせていたら
周りの乗客たちはミンナ口を空けて
サカナのような虚ろな目玉で僕を見るだろう
見ンナ、こっちミンナこっちミンナこっちミンナこっち

こっち、こっち、こっちこっち
おいで、おいで、おいでおいでおいで
ミンナこっちミンナこっち、ミンナコッチオイデヨ

カンカンカンカンカンカン
叫びながら遮断機は降りる
少年の頃の自分は立ち止まってしまう
僕は次の駅で電車を降りる
誰もが踏み切りの前で立ち止まってしまう
叫びながら遮断機は降りる
金切り声を上げて
叫びながら
レールの上を
降りていく人たち
白い目で見られながら
蔑まれながら
口をパクパクさせて

それを見て
未だに濁ったサカナの眼で
静観する人たちの群れ
いつまで冷静を装うつもりだ
皆さん、目が死んでいらっしゃる

何処へ行くとも知らず
レールの上を走り去る
ミンナ、ドコヘイクンダヨ


自由詩 レールの上 Copyright 結城 森士 2007-10-18 08:06:40
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