信号の唄
服部 剛
信号が青になり
「通りゃんせ」の唄が流れ
人波に紛れ横断歩道をわたる
若い市議会議員はひたむきに
「よろしくお願いします!」
そ知らぬ顔で通り過ぎゆく人々に
自分の顔がにっこりとしたビラを差し出し
幾度も頭を下げている
東口の階段を上り
駅構内を通り抜け
西口の階段を下る
信号待ちの女学生達の後ろで
地面に落ちた名札が一枚
ひらひらと震えていた
( 大人になっていつのまに忘れていた
( わたしの ほんとうの名前 はなんだろう・・・
人知れぬ ? を胸にかかえたまま
ふたたび「通りゃんせ」の流れる人波に紛れる
背後に遠のく
ひたむきな若い議員や
風に震える名札のことを忘れて