径(みち)
望月 ゆき

晩夏の草むらに足を踏み入れると
かわいた空気がひび割れて
よれた、真っ白いシーツが敷かれ
見たことのない男が横たわっている
あばらの上には、何本ものみちがあり
そのどれもが、わたしを受け入れない



光りの射す方角に背いた姿勢で
たたまれた胸をひらくと
男の血管が青白く、透けている
そのいくすじもの流れを追いながら傾くと
深い深い海へ入りこんでは
底に沈められた悲哀に
足をからめとられ、凍ってしまう



生と死の往復に体温は上昇し
季節の境で、はだかのわたしはひどく咳きこむ
見たことのないはずの男の
のどぼとけの位置をおぼえていて
そこに、くちびるを寄せると
塞がれていたみちが皮下で氾濫し
流れたきり還らないので
この世のどこにも存在しないその男に
わたしは、永遠に入りこめない




自由詩 径(みち) Copyright 望月 ゆき 2007-10-17 01:50:42
notebook Home 戻る