秋、ふたたび
恋月 ぴの
落花することに歓びがあるとするならば
目の前に横たわる海鼠状の災禍を受け入れてみたい
あなたと
わたし
コロシアムと密かに呼び合う
誰ひとり立ち入ることの無い塔屋の片隅で
ふたり
ラケットで交わす円錐形のことばたち
それらは思わせぶりであったり
ときには失望を玩ぶような残虐さを秘めていたり
ビル風に煽られたスカートの裾を左手で押さえ
受けとめることの出来なかった
ことばのひとつが
コロシアムの床に落ち
それは過ぎ去った季節に取り残された一匹の蝉
寸分も動くことなく
否
透き通る羽を僅かに震わせたかに見え
思わず差し伸べた手を
遮るかのようにあなたはラケットを振るう
手など差し伸べてはいけない
誰がぼくたちのことを覚えているのか
中途半端な優しさなど捨ててしまえ
コロシアムの凍て付く空
ラケットの先で
翳り出した日差しの傾斜角を辿り
揺れるネットの向こう側にいるはずの
あなた
の
姿が