笑顔の意味
松本 卓也
向けられた笑顔の全てが
嘲りだと信じていた時期がある
空が曇れば必ず雨が降り
見惚れた花は明日には枯れる
呟いた言葉が嘘に塗れ
聞き続けたい声はやがて遠く
確かなものは何も無い
膝を抱えて腰掛けるベッドの上
意味も無く怯えていた日々
そんなに遠く過ぎたわけじゃないのに
それほど年を食ったわけじゃないのに
失ったものが多かったのか
手に入れたものが少なかったのか
備えた経験は明日を生きるだけのため
青臭い理念を叶えようと拾い集めたもの
無駄な知識として時折感心されるだけ
こんな日々ばかり続くと
別れた人々の笑顔が恋しくなってくる
連なったマンションの灯りが
一つまた一つと消えていく深夜
電気を消すのが少しだけ怖い
また夢の中でさえ仕事をするのだろうか
幾つもの後悔が押し寄せては
変わらない姿を記憶の隅に浮かべる
それはただの郷愁なのか
それとも単なる弱音なのかな
何時の頃からだろう
笑い声に意味を求めなくなったのは
何時の頃からなのだろう
笑顔の種類を探らなくなったのは
本当に身近な空間に
温もりが転がっているならば
たとえ道化のまま日々を過ごそうと
嘆く事はなくなったのだけれど
僕はまだ大人になれていない