宝石箱
北村 守通
夜な夜な
開けてみる
夜な夜な
取り出してみては
様々なシチュエーションを想像しては
あるいは
過去の思い出に浸ってみては
ほくそ笑み
ついには
我慢できなくなって
ロッドを繋ぎ
リールをセットし
ラインを繋ぎ
こん週末こそはと
決意を固めてみたりもする
大抵は
なにかに理由をつけて
家から一歩もでなかったりすることのほうが
大抵は
それでも勇気を振り絞って
フィールドに出てみても
夢はあくまで
妄想であることを
飽きない程度に
納得させられるのだが
そんなときに
ふと
タックルボックスの中から
こいつらが
笑いかけてくれているような気がする
やさしい帰路だ
思えば
遥か故郷から
一緒に連れてきた
家族達よりも
顔を合わせている
新参者も増えたけれども
個性もそれぞれ違うけれども
続かなかった友達関係
得たこともない恋愛関係
そんな妄想よりも
確実な
深い絆が
妙に温かく感じてしまう
長過ぎた一日の終わりに
宝石箱の蓋を閉める前に
そっとおやすみを呟いた
彼等は
どんな夢を観るのだろう
遥か彼方の
高知の
あの蓮の茂った沼地だろうか