摂取
狩心

食べ物を摂り過ぎて
体中に凸凹ができる
凸の部分は紙やすりで削って
凹の部分に合わせる
占い師の水晶のように丸くなった体は
光を反射しながら他人の姿を映す
坂道をころころと転がって
純白の海。心の揺らぎ。

水面の波は中心から遠くへ
高さを増して遠ざかっていく
円形状に広がる波紋
それを軸として
さらに大きい水晶が
構築されてしまう

密かに鐘が鳴るバリケード
侵入者は小魚の群れ
水面に浮かぶプランクトンを
食べに来たんだよ
食べ過ぎるなよ
そんな会話

潜水艦から放たれた魚雷に
誰も気付かないままで
小魚たちは肥大化し
サメやマグロ、クジラになって
海の中に溶けていった

漁船から網が放たれて
魚たちは捕獲され
食卓に並んだ

タコが空を飛ぶ日
締め付けられた内臓は
天日干しされて
干乾びていった

水晶に亀裂が走る
水は世界の外側へと流れていく
外側が水で満たされ
純白になった時
水晶の中身は
空っぽになった

その中を
一羽の鳥が飛んでいく
夕陽に向かって闇を背に
凍てつく風と会話しながら
地平線に近づくにつれ
感覚を取り戻していく

草原を走る馬
風の言葉を知っている
馬に跨る人間は
風の言葉を知らない
永遠とも思えるようなその距離は
自然と人間を
確実に切り離した

見失っているのですか私は、私を
荒れ果てた部屋に呼び戻した
散らばっているものを一つずつ整理しないと
私の生理現象も止まったままだろう
肉屋に買い物に出かけた
牛や豚、鳥の声が
私には聞こえる
私は包丁を手に握り
自らの手を切り落とした
切られた断面からは摂取されたものたちが
勢いよく飛び出した
私は試されていた
おまえに生きる価値があるのかと

純白の海。心の揺らぎ。
食べ物を摂り過ぎて
体中に凸凹ができる
尖った肉体が
人を傷付けてしまうとしても
私はもう、紙やすりを使わない

水面の波は遠くから中心へ
高さを増して近づいてくる
私は小さな水晶を手に持ち
そこに映る自分を
見つめ、続ける
連続していく命を
忘れないために


自由詩 摂取 Copyright 狩心 2007-10-14 18:18:15
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