ドガガガガ
楢山孝介

ドガは悩んでいた
 俺も詩ぃ書いてみたいんやけど
 なんかこう、湧いてけえへん
 インスピレーションっちゅうのかな、ようわかれへん
と、マラルメに相談した

マラルメはなめらかに答えた
 それは違うよ君。
 全然違う。悩むことなんてない。
 インスピレーション? ミューズ?
 そんなのたわごとだ。イメージ戦略だよ。
 詩はそんなものでは書けやしない。
 詩は言葉で作るものさ。ただそれだけさ。

 そうなんや
 そうだよ。
 書けるやろか
 書けるさ。

というような話を読んだ
その後ドガが(ドガガガガ!)詩を書いたのかは知らない
マラルメがドガに絵について訊ねたら
同じようなことをドガも答えていたかもしれない

マラルメ詩集、どこかにあったよな
ドガの画集ならすぐに見つかるんだけど
ドガの描いた踊り子に見入っていたらいいか
あまり記憶に残ってないマラルメの詩より
ドガの絵の方が多分ずっと好きだ

ドガの絵の方が多分ずっと好きだ
で詩を締めようとしたのだけれど
あいにくなことにマラルメ詩集を見つけてしまった
付箋を一枚も貼ってない
まだ読んでないのか
読んだけれど一編も好きになれなかったのかは思い出せない
「生ける身は悲し、ああ、書物みな読み終わりて。」
適当に開いたページにあった一行で
その詩が書かれた当時の
書物の少なさに思いを馳せる
(きっと誤読)

ドガは紙とペンを捨てて
キャンバスに絵筆でもって
言葉を綴ろうと試みた

 このやり方なら詩ぃ書けるかもしれん
 絵描くように詩ぃ書いたったらええんや

でもいつの間にか
ドガは詩のことを忘れて
キャンバスに新しい絵を描き始めてしまった

アトリエに遊びに来たマラルメが言う
 そうだよ。
 君にとっての詩はそれだよ。
 君の絵は詩なんだよ。

ドガは首を振る
 これは絵や
 言葉やあれへん
 詩ぃやあれへん
 何言うとんねんあほ

どちらが間違っていてどちらが正しいかなんていう
どうでもいい話にはならず
二人はその後朝まで酒を酌み交わした
という話は
残念ながら伝わっていない


参考:丸谷才一 山崎正和『日本語の21世紀のために』(文春新書 2002年)


自由詩 ドガガガガ Copyright 楢山孝介 2007-10-14 02:05:09
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