青年日和
山中 烏流

テストの端に付けた
小さな丸の中だけが
やけにリアルに見えて
目を逸らした、あの日
 
飛び交うチョークの粉と
女子高生の猥談の側で
僕は、サナギになる準備を
早々に始めていた
 
 
ラムネ瓶を割って
取り出したびいどろだけが、
自分の持ちうる中で
唯一の本物なのだと
 
そうしてあの日
ラムネを買っていた店は
五年くらい前に
潰れてしまった、らしい
びいどろはまだ
手の内にある、というのに
 
 
まだ拙い筆跡と
試行錯誤の消しカスと
耳元から溢れた旋律が
折り重なった、あと
それが繭になることを
僕は知っている
 
昨日、
幼なじみのあの子が
繭を紡ぎだしているのを
カーテンの隙間から
覗いていたからでは
ない、ことにして
 
 
名字と名前の間
その空白が、自分なのだと
言い聞かせるように
僕の利き手は
濁点を書きなぐる
 
そのうち
髪の毛の先から
アメーバ状になることを
密かに期待しながら
濁点を、書きなぐっている
 
 
その
次の次の瞬間辺りで
僕はまた
僕に羽化をすることを
 
テストの端に付けた
小さな丸の中から
誰かが覗いている
の、かも
しれない。


自由詩 青年日和 Copyright 山中 烏流 2007-10-13 01:04:44
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