HOTEL
まりょ

 
心臓を取り出して
はい、って渡せたらよかった
一番近付いた瞬間に
惜しげなく

薄暗い部屋
間接照明で
輪郭はまどろんでいる
意味の無い言葉や
意味の無い温度で
外側は溢れている

やさしさなんかじゃなく
でもこれ以上ないやさしさで
擦り合わせる皮膚
どうやったって
混ざり合わないという
確認作業
丁寧に進めていく

大切な吐息と
重要な温度は
やがてどんどんと近付く
間の空気は濃密さを増して
息をするのももどかしい
他のものを取り入れる余裕は
一ミリもなくていい

けれど知っている
そこから
それ以上は
離れていくばかり

そのうちに
内側が堪えがたく収斂して
あなたの両手がまたよごれる
照れた笑いをひとつまみだけ交わして
その一瞬が
例えようもなく好きだ
すぐに消える

そうしてまた
渡しそびれてしまう
惜しんだ一瞬で
知っている
ここから
これ以上
離れていくばかり

なのはもう
いやだよ


心臓を取り出して
はい、って渡せたらよかった
遠ざかり始めるその前に
惜しげなく
 


自由詩 HOTEL Copyright まりょ 2007-10-12 06:02:40
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