腐った魚の眼に映るのは、脚のないイタリア人のカウパー

空は
誰のものでもない美しさを携えているから
弾幕に汚れた視界の先に
ここには希望があるよ、と照らしてくれるけれど

僕の
指先が触れられる距離にあるのは銃口くらい
羽ばたく鳥を何度も握るけど
マジックのコインみたい、開けば何もないんだ
違うのは、誰も驚かないことくらい
もう、誰も
驚くのに疲れたみたい


雲が
近所のパン屋さんの煙突から僕の元に届けられて
バターの替わりに
オリーブオイルを塗って、食べてみた
白ワインで喉の奥へと包み込めば
ジェンティーレ、
優しい味がするね。
にこにこと
一匹の蝸牛がコルテーゼの葉の上から
ミルク片手に微笑んでいる


彼を
ひょいと摘まみ上げると
残り少ないオイルをフライパンに滑らせ、投入する
身を縮めてコロコロと
軽く塩胡椒、いい香りで炒られる姿
フォークの先
舐めれば
ジェンティーレ、
優しい味がするね。
そのまま、ひといきに突き刺すと
溢れる肉汁は雨
ひっきりなしに響く銃声を
包み込み隠してしまう


髪の
毛の先に滴を垂らしながら
ジェンティーレ、ジェンティーレ、優しい味がするね。






空の誰のものでもない美しさに、夜の帷
ヴェニスの水道に浮かぶ、月は砕かれた殻
お皿に残された、それを眺めて
腐った魚の眼に映るのは、脚のないイタリア人のカウパー



自由詩 腐った魚の眼に映るのは、脚のないイタリア人のカウパー Copyright  2004-06-06 10:54:03
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