椅子畳職人
木屋 亞万

彼は椅子を畳むのが上手かった
足を器用に動かして
瞬く間に畳んでしまう
八脚のパイプ椅子を分けて
両脇に抱えるようにして
収納スペースへと収めていく


彼は日々を畳むことに長けていた
単調な作業を繰り返す日常を
小さく畳み過去へと収めていく
いつでも引き出せるように
丁寧に整理しながら


彼は自分を畳んでしまう人であった
三つ繋がったパイプ椅子の真ん中のように
周囲の動きに従い畳まれていく
出番の少ない生活の中に
人が隣を空けたがる意味を探しながら


彼は突然店を畳んでしまった
パイプ椅子より安楽椅子の方が
安楽椅子より回転椅子の方が
人に喜ばれるように思ったのだそうだ
畳み椅子はただ持ち運びに適すだけ
奥深く収納された椅子たちは
もう出てくることはないのだろう


彼は傘を折り畳む仕事を始めた
実に折り目正しく仕舞い込み
水滴一つ残さず片付ける
仕事の細やかさは変わらなかった

永遠に眠る畳み椅子たちは
今も彼の胸の中で綺麗に畳まれている


自由詩 椅子畳職人 Copyright 木屋 亞万 2007-10-12 01:14:17
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