試し矢
一筆
あなたのつがえる矢の先は
違わずに私の胸を狙っていた
寸分の狂いもなく正確に
心臓を貫くことができただろう
波の上に舟は揺れていたが
騎上のあなたは狙いを定め
かたわらの主が命じさえすれば
ただちに私を射殺せるだろう
どんな謀略も関係なく
わたしをただ一矢に葬り去れば
己と名誉のすべてを守れるはずだった
そうすることは難しくなかったし
わたしはそれでいいと思っていた
けれどあなたの放った矢は
わたしではなく緋色の扇を空に舞い上げた
何か低くつぶやいた主に黙礼をひとつ
背を向けたあなたを見送りながら
遠く及ばぬ心を抱いてわたしは泣いた