『氷点』
東雲 李葉
息まで凍りそうな冷たい冬。 
赤が覗くささくれ。傷付けるのは楽しいですか? 
突き刺さるような冷たさが温もりあるものすべてを苛む。 
真っ白な雪がきれいなのだと人は言うけど、 
あたしは怖いの。美しさに埋もれて死んでいくこと。 
世界中に静寂が溢れる夜。
何処かで誰かが熱を奪われ殺される。 
それがあたしじゃないかって不安で不安で潰れそうなの。 
かじかんだ手は誰かに触れてようやく自分の冷たさを知る。 
自分の冷たささえ分からないまま氷に姿を変えてしまうから、 
かじかむ夜は誰かがいなくちゃ生きられない。 
やがて息まで凍り尽くされあたしの呼吸は静かに途絶える。 
姿を消した落葉にそんな自分を見いだしたの。 
冬は嫌い。冷たさはいつも人を孤独にするから。 
寄り添っても擦り合っても所詮36℃の体温。
人は一人じゃ救われない。 
かじかんだ手は誰かに触れてようやく人の暖かさを知る。 
自分しか知らない手の平が自分以外の皮膚に触れる時、 
人はようやく氷を解かす。決して交われはしないけど、
人はようやく一人じゃなくなる。あたしは素直に呼吸ができる。 
淋しさへの抵抗ではなく、孤独への恐れではなく、 
生きてることを忘れそうな冷たさへの純粋な恐怖。 
包み込むように命を凍らす、雪の夜は誰かが欲しい。 
一人じゃないよ、と赤い指先絡めてきつく教えて。 
氷点を越えないうちに誰か熱で気付かせて…。
 
