『氷点』
東雲 李葉

息まで凍りそうな冷たい冬。
赤が覗くささくれ。傷付けるのは楽しいですか?
突き刺さるような冷たさが温もりあるものすべてを苛む。
真っ白な雪がきれいなのだと人は言うけど、
あたしは怖いの。美しさに埋もれて死んでいくこと。
世界中に静寂が溢れる夜。
何処かで誰かが熱を奪われ殺される。
それがあたしじゃないかって不安で不安で潰れそうなの。
かじかんだ手は誰かに触れてようやく自分の冷たさを知る。
自分の冷たささえ分からないまま氷に姿を変えてしまうから、
かじかむ夜は誰かがいなくちゃ生きられない。
やがて息まで凍り尽くされあたしの呼吸は静かに途絶える。
姿を消した落葉にそんな自分を見いだしたの。
冬は嫌い。冷たさはいつも人を孤独にするから。
寄り添っても擦り合っても所詮36℃の体温。
人は一人じゃ救われない。
かじかんだ手は誰かに触れてようやく人の暖かさを知る。
自分しか知らない手の平が自分以外の皮膚に触れる時、
人はようやく氷を解かす。決して交われはしないけど、
人はようやく一人じゃなくなる。あたしは素直に呼吸ができる。
淋しさへの抵抗ではなく、孤独への恐れではなく、
生きてることを忘れそうな冷たさへの純粋な恐怖。
包み込むように命を凍らす、雪の夜は誰かが欲しい。
一人じゃないよ、と赤い指先絡めてきつく教えて。
氷点を越えないうちに誰か熱で気付かせて…。


自由詩 『氷点』 Copyright 東雲 李葉 2007-10-08 23:08:35
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