さいごのおもいで
狩心
わたしとあなたは映画館に行く
学生一枚、一般一枚、
このチケットがわたしとあなたの距離
いつもわたしがあなたの手を引っ張って
あなたは困った顔をしながら、ふたり劇場の中へ
あなたは席に座って、画面をじっと見つめている
わたしは席を立って、画面の中へ行く
あなたがわたしを見ている、それだけでわたし、倒れそうで・・・
カメラはバストサイズでわたしを映す
胸の前に、祈るように組まれた手、
「・・・ずっと一緒・・・」
あなたはじっと見つめたままで、何も答えず、
カメラがわたしの顔をアップで捉える
瞳の奥には泉が広がっていて
水面にキラキラとお月様の光が反射している
水辺に座る人魚が、ぽちょんと水中に潜る・・・
ドアをばたんと閉める音・・・わたしは出て行く
パズルのような空に、ぽつんとドアが取り残されて
わたしが席に座ると、あなたが席を立つ、
コホンと咳き込んで、空中に消える
開けられたドアから、あなたがポテンと落ちる
広大な砂漠をあなたはひとり
そう、ひとりで歩いて行く・・・
カメラは動かないままで、あなたはどんどん遠ざかって
小さくなって・・・見えなくなって・・・
あなたが席に座ると、砂漠の風が劇場を包んだ
ちりちりと音を立てて、口の中はざらつき始める
呼吸するのも苦しくて・・・
わたしの体は溶けて、赤い席を水で濡らす
せんせい・・・もうわたしたち・・・
あなたは砂嵐の画面を見つめたまま、強くわたしの手を握り、
始まらない映画を、待ち続けていた
あの時ふたりで、映画の中へ行けばよかった、
あの時ふたりで、消えてしまえばよかった・・・
それからというもの、わたしはずっと、映画の中を生き続けていて
あなたが現れない劇場に向かって、ひとり叫び続けている
観客はもう誰もいなくて、そう、シーズンが過ぎたから、
古い映画は誰も見に来ないの・・・
わたしの現実は、音を立てて崩れた
今日も一輪、黄色い花を
あなたの傍に、置いてきました
花の香りがわたしを運んで、
冷たく硬い石の中に、染み渡る事を願って、
あなたがコホンと咳き込むあの仕草、わたし今も真似してるんだ
みんながあなたを忘れても、わたしはあなたを忘れない
あなたはわたしの中で、ずっと生き続ける