路上を這う
結城 森士

およそ人の来ない舗道に倒れてから、ずっと静寂に身を預けていた。手や足は動き方を忘れてしまったようだ。
このまま寝てしまおう。駅まで20分。終電にはもう間に合わない。歩く気力も無い。
音楽は流れては来なかった。時折、ずっと遠くのほうでヘッドランプが流れていった。

携帯で言葉を発すれば、笑うことしか出来なかった。そして泣いた。
全身が震えて口をうまく動かすことすら出来ず、手は冷たく固まってしまった。
長い時を精一杯足掻いて、どうにかここまでやって来たというのに。

夜、それは一切と関係なく流れていった。
舗道の乾いた硬質感だけが唯一心地良かった。他に残されたものは暗闇しかなく。
惨めな虫ケラたちが低い所から泣いている。
電燈に虹が掛かっていてそれを情けない姿で眺めている。時間など関係なく。帰る場所なんて何処にもなく。
惨めな虫ケラたちが低音で泣いている。
勝手に零れ落ちた涙は、一切関係なくただ流れた。

朦朧とした時間の中でいつしか、意思と身体が分離されていった。
背中には透明で細い虫の羽が生えていた。
小さく小さく解体された身体の部品はもう動かない。
この羽をどのように振れば僕は空を飛べるのだろう。
分離された不自由な手足はもう必要ないのだろう。
全てと関係なく飛び去ってしまえれば。
小さな虫ケラが電灯に群がっている。

一切と関係なく夜は流れている。


自由詩 路上を這う Copyright 結城 森士 2007-10-07 09:37:21
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