夜感光
山中 烏流

滴るものは
いけない、とされた口が
私の知らない場所で
反抗を覚えた頃
 
わざと首にかけた
新しいヘッドフォンからは
聞き慣れない音楽が
何故か、かかっていて
耳を塞いだ
 
 
時計は既に
直線を過ぎている
それを知りながら、私は
点滅する光に見とれて
窓を開こうとしている
 
持ち出した靴の先が
結露に触れた後
カーテンを揺らしたのを
気付かないままに、
 
 
私の指先は
窓際を器用に滑りながら
誰かの名前を
思い出そうとしている
 
朧気な輪郭は
触れた刹那、消えて
かじかんだ指先が
小さく、震えていたことを
忘れてはいけないのだろう
多分
 
 
地面を叩く音が
緩やかに弱まるのを
 
外から漏れる光と
私の瞳だけが
知っていたならば、いい
 
 
ヘッドフォンからは
もう、音楽は聞こえない
私はそれを外しながら
時計の音を探す
 
窓を、少しだけ開く
開いたあと
反抗を覚えた口が
私の知らない場所で
許しを請うていた
 
 
漏れている光は
すべからく、
十字を模していて
 
私の瞳だけが
それを、信じている。


自由詩 夜感光 Copyright 山中 烏流 2007-10-07 00:33:18
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