アンテ

                        2. 顔

電車の揺れかたは
嫌いじゃなかった
外を流れる景色にはしゃいで
シートのうえで
ぴょんぴょん跳ねるたび
おとうさんに注意された

プラスのドライバー
を静かに回す
くるるくる
ネジが外れて手のひらに落ちる
ドアのまわりは
取りたい放題だ
部品が外れないよう
ふたつのうち ひとつだけ
ここもここも大丈夫

警察の人の説明は
なんだかよくわからなかった
とにかくカード会社の手続きをしなさいという
リエちゃんがなぜ
あんなに謝らなければならないのだろう
いくらあったかも覚えていないのに
だれかが勝手に使っても
気づかないようなお金なのに
カードを使うとき注意していれば
請求書をチェックしていれば
こんなことに

わからない

ドアが開いて
以前はずみで降りたことのある駅
と空間がつながって
また途絶える
窓から見えた
ススキの群生は
あんがいゴミでいっぱいだった
嫌な匂いがした

そうじゃない
車掌がやってきて
ちらっとあたしを見る
そうじゃない
でも
本当は
そうなのかもしれない

いろんな物が顔に見える
と言ったら
不思議な子あつかいされた
ほら ふたつの窓が目で
ドアに注意のシールが瞳
鼻があって
下の補強板が口
みんなふんふんとうなずいて
水道の蛇口
洗濯ばさみ
電話機もコンセントも
変な子ねえ
月にはウサギなんていないって
言うくせに

だって
月は
人が作った物じゃない

最寄りの駅で降りる
さようなら
ドアがにやりと笑って
ピシャッと閉まる
用があるから と
警察の出口で別れたリエちゃん
の後ろ姿に
あたし
声をかけるべきだったのだろうか
握りしめていた左手を
そっと開く
ネジがちょうど十個
帰ったら
ビンに入れなくちゃ

手が震える
わからない
大きく息を吸う
震えが止まる



                          連詩 観覧車





未詩・独白Copyright アンテ 2007-10-06 23:18:23
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