牡丹の哀しみ
池中茉莉花

13歳のある朝
ひとりの少女が家を出た
それは女の早すぎる自立

少女は市場で自分を売った
18歳といつわって

18歳になったとき 刺青師のもとに駆け込んで
世界一の 牡丹になった

牡丹にひき寄せられるよに 男たちは寄ってきた
だけど 金と引きかえに 彼女の心に ほんの少し 硫酸を注いだ

気づいたときは 穴だらけ
ポテトチップにチョコレイト
心の穴に詰め込んだ
でも しみ出してくる硫酸で 詰めても詰めても 溶けてゆく

その痛みは だれも知り得ない
だが 人々は 彼女のもとを去ってゆく
ただその風貌で

わたしは 牡丹を愛してる
わたしに化粧をほどこした 牡丹の白く細い手が
優しくほほにふれたとき
牡丹の素顔が見えたから

彼女は 涙を見せないけれど
人目を忍んで ふたりで入った 風呂の中
湯気でかすむ その背の 牡丹から
夜露が 一粒 ぽとりと 落ちた



自由詩 牡丹の哀しみ Copyright 池中茉莉花 2007-10-06 10:34:13
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