朝のひかり
池中茉莉花
つめたき夜の独房の
友は石のトイレのみ
叫んでも届かぬ声なら
しぼりだすだけ 虚しく
ゆっくりと 立ち上がって コンクリートの壁を
手のひらで なでて さすって
あたためる
どのくらい わたし 狂ってしまったの?
壁に小さく問いかける
目をつむると 心に芝生が 広がっている
シロツメクサのなかに 一輪だけ
アカツメクサが ぽっと 咲いている
「ごめんね」と 摘みとった手に やわらかな水滴がしたたりおちる
濃い桃色が 痛いほど目に 突きささる
花びらを すっとぬいて ゆびで口もとに はこぶと
なつかしい甘みを くちびるに感じ
ワインレッドのかおりで あたまの芯が しびれてゆく
その酔いで 眠りにつこうと
堅い床に 横たわる
それでも眠れない わたしの口から ふとこぼれでるのは
ちいさいとき 母とうたった
あどけない こどもさんびか
朝のひかりとともに うかびあがる 小さなともしび