マシュの葬式
フユナ



マシュはとなり町の病院で死んだ
マシュが愛した
マシュの本屋では死ななかった


マシュは本屋だった
この町一軒の本屋だった
マシュの店は正方形
そこにふるびた黄色い本
この店一冊の本だった
本は一冊だったけど
マシュは食うには困らなかった


葬列は極彩色
町のひとたちが極彩色だから。


こどもたちはよく聞いた
そのたった一冊に
なにが書いてあるのかを
辻の菓子屋の
チョコの味を聞くように
町のひとたちは天をあおぎ
あるいは、煙草をふかして
あるいは、羊皮でできた靴のひもを
わざと踏むようにして、
そうさなあ と、つぶやくのだ


辻を抜けて、
共同墓地に葬列は行く


本屋には寄らなかった
マシュには家族がなかったし
黄色い本はどこかへいって
本屋はもうなかったのだから
泣き女のひとたちが待っている
共同墓地のうつくしい入り口に
葬列は つく


おとなのひとは
たくさん泣いていた
マシュのことをよく思い出せなかった
泣くほどに思い出せなくなっていった


マシュの店にあったのは
マシュはとなり町の病院で死んだ
マシュが愛した
マシュの本屋では死ななかった
ということなんだ たぶん

それを盗み見て
こどもらは おもう
似たようなノートに
似たような言葉で書き込んで
ただ
鍵だけは、さまざまだった。









自由詩 マシュの葬式 Copyright フユナ 2007-10-03 00:01:49
notebook Home 戻る