彼は殺し屋
相良ゆう
彼は殺し屋
40人の教室にやってきた
先生が連れてきた
私たちは目を伏せた
選ばれないように
選ばれたらお仕舞いだ
彼は殺し屋
黒板の前を行ったり来たり
吟味するように行ったり来たり
私たちは俯いて
目が合わないことを祈っていた
震える手で祈っていた
彼は殺し屋
教卓で何か話している
笑顔で何かを話している
右手には大きな黒いライフルが
肩の辺りを無邪気に弾む
耳にはなにも聞こえてこない
彼は殺し屋
不気味な笑みを浮かべてる
狂いそうなほど恐ろしくて
不思議に惹きこまれてしまう
私は怖いもの見たさで
ちらりと目を上げてしまった
彼は殺し屋
悪魔の瞳と目が合った
銃口が私を狙っていた
喉を貫通する感触
無様に床に倒れこむ
冷めた汗を掻いていた
彼は殺し屋
教室から出て行く
満足げな顔をして
私は床に跪き
貫かれた喉を思い
同時に正気を失った
彼は殺し屋
悠々と廊下を帰っていく
我が物顔で帰っていく
私はボールペンを握り締め
夢中で彼を追いかけた
視界は白いままだった
彼は殺し屋
私の足音に気づかない
右手に握ったボールペン
後ろから喉もと狙って突き刺した
肉を貫く確かな感触
視界は白いままだった
彼は殺し屋
喉を押さえて蹲る
赤黒いどろどろの液体が
指の間から溢れ出す
私はペンを引抜いて
今度は胸元に突き刺した
彼は殺し屋
廊下に無様に倒れこむ
喉と胸を押さえて倒れこむ
私はなおも執拗に
ぐちゃぐちゃになるまで突き刺した
視界はまだ白いまま
彼は殺し屋
私を殺した殺し屋
許せるわけなんて無い
完全に動かなくなるまで
徹底的に突き刺した
視界はまだ白いまま 音までも無くなった
彼は殺し屋
みんなが彼を見つめている
面影も無い彼を見つめている
私は自分の喉元に触れる
そこには傷なんて無い
一滴の血も流れていない
みんなが私を見つめている
音と色の戻った世界に
静かな狂気と紅い凶器を握り締め
笑みさえ浮かべる狂った私
みんなが私を見つめている
みんなが私を恐れている
私は殺し屋
殺し屋を殺した殺し屋
40人の教室から生まれた
紅く染まったボールペンで
今度は誰を狙おうか