大通りに、投げる
水町綜助

どんな町にお囃子はやしが鳴り響いて
どんな町で葬列が連なってんのさ
僕は家へ帰る
青と黄色と黄緑のガラス窓が
なにかしらハンマーで叩き割られて
キリキリ、と
破片が落ちてゆく床には金色の陽溜まりだ
やたらゆっくりと輝く
夏が
終わったんだね

「ああ。
 いちまつの
 不安を残して
 行った
 いってしまった」

 *

夏、あの、いちめんの水田に
青々とした稲がびっしりと育って
風に撫ですかされていた夏
そのさなかを
恐るべきはやさで僕を滑らせた赤鉄の電車よ
世界を
この僕のそれを
よくも一本の線にしてくれたね
いっそ持ち去れ
運ぶことはせずに
そのつまびらかな線に
僕をも綴じ込んで
吹き流れるなかに
捨て去れ
そうしたら膝を抱えた幼女のように
ちいさく
丸まりながら落ちて
柔らかく壊れるから
声も
押し殺して

だが
秋が来ても
ぼくは
こうしてまた
はにかみわらいを
つくりこんでいる
だから
かわりといっては何だけれど
きりさめが
陸橋にもまた
音をたてず
降りしきって
新しい季節のあくびに混じって
まどろんでいたから
目を細めたぼくは
250?オートバイの駆動輪を
ブレーキでロックさせてスッ転んどいたよ
ずたぼろで
わらいごとだ
すこし痛くて
右肩が
わらいごと
すこしスッとしたよ
夜が
来るまでの
あいだ

 ・

ジムビーム

シングルですか

はいそんでロックです

あなたは?

シンガポールスリング

そちらの方は

・・シャンディィーガフ・・・

ジンとかわかんない焼酎ばっか
なんでもいいよ
うまいとか分かんないしね

ああ、ジム、ビーム
ロックで
ダブルにしといてください
もういいから



もういいから

 *

なくなっていく
夜が降りつもるたび
たった19度に溶けていくなかで
なくなっていく
さまざまに
消えて
「終電とか?」
ああ、夜の町に小さくなっていくよ
赤いライトがちいさくね
たくさんの人を乗せて行くんだ
家まで
そして寝て
また朝までだ
「くりかえすの?」
知るか
くだらない
ただ
それが
悪いこととは
思えない
ぜんぜん
・・・キャサリン・・
ゼダ=ジョーンズ・・・
ああ、わるい
いや、ふと浮かんだから言っただけ
関係ない
あやまるよ
ただ
それが
悪いこととは
ぜんぜん
思わない

 *

何もかもが
どこかに消えていってしまえばいいような
しかし何もかもなくなったらほんとうにつらいような夜に
僕は特急列車に乗っている
満員で
何故か車内にはあぶらあげの匂いしかしない
人がこんなにいて
そんな匂いしかしなくて
人だらけで
でも見回しても
詩的とか
詩情とか
そんなもんどこにもないし
どうしてもと言うんなら座席の裏ひっぺがしたっていいよ
ないよ
意味もそんなもの
現象として空想上だから
はなからいまさらだ
だけどやるのは
まだ足りてないからだ
たぶんね
何がかはしらんけどね

ああ
欠伸みたいなもんだたぶん
泣くことより先に
温かい水の中でする

あくび

・・・まあ知らんけど

 *

陽射し
陽射し
陽射し
陽射し
太陽の!
あかり!
このたちこめる
雲天を裂け
雨粒を、
幾千の、
世界に、
降り止まない、
霧雨を、
おれたちの靴さきが
濡らされる前に
灼き消せ
一条光の帯を
広げて
至る所に降りつもる
すべての悲しさを
烈しく照らして
灼き消せ
そしておれを
一瞬の幸福のうちに
焼き殺してください


自由詩 大通りに、投げる Copyright 水町綜助 2007-10-01 08:12:34
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