アンテ

                        1. 雨

そういえば一度も
バケツをひっくり返したことなんて
なかったと思う
ああ
冷蔵庫を窓から投げ捨てた
ことがあった
そんな雨が
ひさしのむこう側で音をたてている
手をのばせば
とどく距離

あんがい
たいしたことはないのだろう
バケツ程度の水なんて

フローリングの床に寝そべって
網戸のすみっこに
小さな穴があいている
垣根の木が
まるで不ぞろいだ
古い借家でも
あたしの居場所はここしかない
郵便物だってちゃんととどく
ち・よ・こ・れ・い・と
子供の影が
ときどき表を通りすぎる
ぱ・い・な・つ・ぷ・る
そんな風景が
雨に押しつぶされていく
マユコさーん
玄関から声がする

ポケットをさぐると
ネジがひとつ出てくる
銀色の光沢がまがい物っぽい
あおむけのまま
いろんな角度からながめていると
見なれた顔が
突然あらわれて笑う

「またこんなところでゴロゴロしてる」

急に雨が降りだしたから
リエちゃんが窓のそとに目をむける
ますます激しくなって
今や会話すらままならない

ビンのことは
知られたくない
ふと思う
事務手続きとか買い物とか
ぜんぶ頼りっぱなしなのに

身を起こす
ネジをポケットに入れる
晩ごはんなににしよう
今日 大学は行かない日だったっけ
みっつとも休講なんです
めずらしいでしょ
椅子にすわって
足をぶらぶらさせながら
テーブルにあった星の雑誌を開いた
リエちゃんが
ふと真顔になる
今日 半月なんですって
でも雨だから見えないね

毎日
月が歳をとることも
時計の秒針が回るように
常に形を変えることも
すべて
地球から観測した現象

月は一度だって
欠けたことなどない

死ぬまでずっと
地球のまわりを回りつづけるのだから


                          連詩 観覧車





未詩・独白Copyright アンテ 2007-10-01 00:29:25
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