口笛
松本 卓也
隙間から漏れる風に誘われ
当て所なく泳ぐ午後十時
空を縫う電線を辿れども
待ち望む場所に帰れはしない
提灯屋台から漂う焼串の香り
車道の真ん中で踊る同輩
年の見合わぬ男女とすれ違う
当たり前の平日が過ぎていく
ホテルの小窓から遠くを覗き
飛びたい衝動を苦笑で抑える
何も諦めきれないままに
何を捨てて行けるというの
取り戻せないのは時間だけじゃなく
誰の為にも生きていないと嘯く寂しさ
誤魔化す術さえ失って立ち尽くし
煤けた存在が街に透き通っては
消えていく
口笛に一片の詩を乗せ
星を探しに出かけたら
大脳皮質にこびり付く
笑顔を探し出せるかな
もう僕を救わない表情を
どうして思い出すのだろう
何に辛くて泣いてるかなんて
ずっと忘れていたいのに