天使の人形
服部 剛
コンクリートの壁に囲まれた
独房のような病室のベッドの上
路上に倒れていた男の
ふくらはぎに密集して肉を喰う
すべての虫を布で拭き取る
白い服の老婆
「 マザー・・・
道端の獣のようなわたしを
なぜ拾ってくれたのですか・・・? 」
痩せて窪んだ瞳に
老婆は黙って
まなざしをそそぎ
直立の人形になった
病人の傍らで
折れ釘の小さい背を丸め
一匙の粥を口に含ませる
病室の
小さい窓から
ひとすじの夕陽は射し
唇にふれた
匙が光る
「 マザー・・・
これでわたしは
遥かな国へ
帰れます・・・ 」
陽は暮れて
男が瞳を閉じた後
老婆は静かに部屋を出る
やがて夜は明け
小さい窓から射す
朝の日溜りが広がるベッドの上
痩せた男の顔はほころび
二度と瞳を開かぬ
天使の顔になっていた