地球がくれた伝説
木葉 揺

とってめかしいリンパの流れに、
ストップウォッチは疾走する。負け
ないようにCD―Rを回し投げ続け
たら、白樺の木を切り倒す結果にな
った。カミナリから我が家を守り続
けていた白樺の木。
「恩を仇で返す」小さく呟いてガッ
ツ。やかんが叫び踊るたびに冷水を
かけて黙らせる毎日、ジューッとい
う音に和んでいた白樺は口惜しそう
に根っこが動いている。「もう十分
・・・」そんな哀愁を漂わせ、やが
て切り株ごとくねくね旅立っていっ
た。
 
 想像以上にCD―Rはやんちゃで
オランダまで行って、アムステルダ
ムを占拠しようとしたらしい。場所
を間違えやがった。同じオレンジ色
でもやや明るいことを知らずに、ス
イッチ押せば全ての物質が吸い込ま
れてゆく。異種格闘技、団体戦はC
D―Rには無理! 
せいぜいスカートの中を焼いて帰ろ
うとするのがオチだけど、せめて浮
世絵から電気くらわっちまいな、と
声を失った人魚姫は言ってみたいの
だった。
 
 王子様は名前の呼ばれ方のヴァリ
エイションに苛立って一覧表にして
みた。「黙らせるにはこれが一番」
と蛙らしい発想だ。ちなみに王子様
は「人間は皆、蛙だ」が口癖で、水
の音でも聴かせてやれとばかりに噴
水ダイブ。しかしスピード上げた婆
さんとぶつかった結果、婆さんやや
優勢になりストップウォッチは9秒
ジャスト。そのカリスマ性に人々は
ジクジク右手を上げ、チョビ髭は自
分の絵が下手なことに気づいた。
 
「絵なんてものは心で描くものだ」
「心で?」
父さん魚は子魚に言う。
「父さんも昔、絵のためにチョビ髭
に憧れてしまった」
そんな言葉を耳に残し、自画像を描
こうと鏡の前でため息つく薄っぺら
な毎日・・・

 今日も静かにマリンスノーが深海
に舞っている。


自由詩 地球がくれた伝説 Copyright 木葉 揺 2007-09-22 03:51:41
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