座ってるだけの椅子
カンチェルスキス
アスパラガスと中央のそれと
交わる
未分化の炎
わたしはまだ生まれてない
コンクリートを接着剤として
ボルトの取れかかった煙突の下で
黄色いペンキで塗った腕を
ぐるぐる回している
ぐるぐるかき消されて
言葉が、言葉をつむぐことによって
どんどん言葉になってゆく続く
消える毎秒1秒ごとで
砂の嵐に巻き込まれる
行方、行方をわたしは知りたいのだ
行方なんてどうでもいい
わたしはアドバルーン日曜日の住宅展示場の上空
白けた青空で打ち上げられる無防備のまま
ああ それを息つく暇なく打ち割るのもわたしだ
自動改札の通過の後で吹き抜けるちょっとした風
わたしの体温が残ってるのもわずかのうち
わたしはまだ生まれていない
なのに何もかもいちいち記憶に残るのはなぜか?
例えば、ケンタッキーのフライドチキンの衣の感触、
風の吹き通しよい図書館の前での浮浪者たちの宴会、嬌声、
スーパーマーケットのレジでの○○カードはお持ちですか?という質問、
例えば、下着泥棒に入る前の泥棒の心境、
傘を忘れて突然の長雨に濡れるにまかせた二の腕、
わたしは光る、光ってもなお、尾を引く羽根を抜かれた孔雀が、
わたしの前をただ通り過ぎる、渇水のダムの底のひび割れにも似て
座ってるだけの椅子、わたしは手に入れた
そしてわたしはそれを壊したのだ、人間の四肢にも似たその椅子が、
わたしはちゃんと破壊されてるように見えたのだ、
わたしはだしぬけに、ラジオ体操第二をやってのけたのだ、
気持ちよすぎて、あくびが出た。
あくびが出たのはどういうわけか。
わたしはまだ生まれてないというのに。