フラグメンツ(リプライズ) #81〜90
大覚アキラ

#81

 やさしくしてほしい

 あたまをなでてほしい

 ぎゅっとだきしめてほしい

 ことばはいらない



#82

 土の中には
 たくさんの死体が埋められていて
 いつの日かふたたび
 太陽の下で澄み切った空気を
 胸いっぱいに吸い込む夢を見ている

 その上をきみは
 真新しい自転車で走る
 炎のような色の髪の毛を
 風になびかせながら
 猛禽のようなしなやかさで

 ふりそそぐ光
 はじける雨粒
 その中心で
 きみが輝くように笑う

 生まれたての光が
 この世界いっぱいにあふれて

 これが
 ファイナルファンタジーだ



#83

 蜘蛛の糸だと思ったら
 おまえの臍の緒だった
 どうりでやたらと太いわけだ
 よじ登って
 見渡す限りの地平線
 臍の緒経由の交信
 幾度も交わしながら
 罪滅ぼしに
 臍の緒を上っていく
 おまえと
 もう一度出逢うために



#84

 灼熱、水玉、夜の虹、目隠し 
 して、銀色の糸を辿るナイロ
 ン製の蛞蝓みたいに、ゆっく
 りと、ゆっくりと。先触れに
 星が流れたら、小さな、小さ
 な声で、あの人の名前を呼び
 ましょう、誰にも聴こえない
 小さな声で。ラム酒、電柱、
 メンソール、肩越しの、タク
 シーのテールランプの紅い光
 を道標にして、フラフラと蛾
 のように。ここはどこですか
 なんて戯言を口の中で転がし
 ながら、いつまでも、いつま
 でも、全部溶けてしまうまで。



#85

 泣きたい気持ちの半分は
 自分への憐れみでできていて

 残りの半分は
 得体の知れない黒いものでできている

 

#86

 すべっていく
 透明さの果てまで
 いくよ
 透き通って
 見えなくなるまで
 喉元に突きつけられた
 毒針のような言葉
 それさえも
 流線型のなめらかさで
 軽やかにかわしながら



#87

 ラッシュアワーの電車の中は
 人間の吐息で破裂しそうなほどで
 誰かの肺から出た二酸化炭素が
 また誰かの肺に吸い込まれていく

 そんな感じで
 誰かの口から漏れ出した嘘が
 また誰かの口に吸い込まれていく
 なんともやるせないリサイクル



#88

 いまおれの手の中に
 鈍器とかナイフとか
 そういうものが
 握られていないことを
 おまえは心の底から
 感謝するべきである



#89

 いろいろなものをどんどん捨てて
 そのかわりに
 どこへでも行ける身軽さを
 手に入れたはずなのに
 捨てたもののリストが
 やけに重くて前に進めやしない
 仕方なく捨てたものを拾いに戻ったら
 誰かが持ち帰ったあとで
 もう何にも残っていなかった
 途方に暮れながら
 捨てたもののリストを丁寧に畳んで
 ポケットにしまいこんで
 どこへでも行けるはずなのに
 どこへ行ったらいいのかも
 さっぱりわからない



#90

 夜明け前のベランダは
 宇宙が近すぎて吐きそうだ
 これが宇宙酔いか
 これが宇宙酔いなのか

 ビル群の向こうが
 鈍く眩しく光り始めると
 宇宙がゆっくりと
 遠ざかっていく

 やあ きみ
 初めからそこに
 立っていたのかい
 そこでずっと見ていたのかい

 ねえ お願いがあるんだ
 ぼくの背中を
 さすってくれないか
 今にも吐きそうなんだ


自由詩 フラグメンツ(リプライズ) #81〜90 Copyright 大覚アキラ 2007-09-21 12:31:33
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