蝉殻
フクロネヅミ
それは夏のことでした。
自分によく似た蝉殻を
空き地の影で見つけました。
思い出を綺麗に残したい、だなんて
それはそれは
よくいったもので。
密閉できる容器が無いので
冷蔵庫を選びました。
タマゴポケットのその穴に
カサリと一つ入れました。
感慨深く眺めていたら
感傷的になったので、
声をあげて泣いてしまう前に
ぱたりと静かに締めました。
気付けば私は
蝉殻ばかりを考えていて
夕食の唐揚げにも
化粧台のイヤリングにも
その面影を探していました。
三日三晩、不眠不休。
狂ったように山をかけずり回り
木に登り、茂みをかき分け、
蚊に刺され、崖を落ち
満足するまで探しました。
蝉殻を潰れるくらい両手に抱えて
"ただいま。"
いい顔してるわ
と、後頭部に蝉をつけた母が言いました。
其れを見て、
ああなりたくない
とだけ思いました。
台所へ行き、冷蔵庫を開け。
それは夏のことでした。
中身を全部ぶちまけて、
密閉されたいと呟きながら、
期限間近なソースの上で
私は感傷に浸るのでした。