「 踏絵 」
服部 剛
早朝の人気無い聖堂で
十字架にかかった人の下に跪き
両手を合わせる
マザーテレサのように
つらぬかれたこころがほしい
修道院から
何も持たずに飛び出して
遠く離れたインドの村の
路上に死にゆく痩せた老婆に歩みより
身を屈め手をさしのべる
マザーテレサのように
あふれるこころがほしい
わたしは時に
放蕩の夜に溺れ
悪気もなく誰かを傷つけ
暗闇に微笑む何者かが
試すように目の前に置いた
踏み絵の顔を幾度も踏んだ
あの日から
汚れた足に踏まれた
哀しい顔の面影が
こころに消えず
今も囁く
( そんなお前だからこそ・・・ )
群を逸れた羊のようにうつむいて
ひとり夜道を歩く背後から
月の光はふりそそぎ
誰かがわたしを待っている
明日へ遣わす