月曜日の住人たち
結城 森士
言葉になっていない
まるで言葉になっていない寝息で
頭髪から爪先にかけての
冷えきった痙攣を受忍し続けて
どのくらいの時が経ったろうか
「明かり…が、消して……あれは…」
やがて訪れるはずの無意識を
待ち続ける他になく、それまではずっと
恐る恐る寝返りを繰り返していたのだが
…遠くから女の咽ぶ声が聞こえていた
水曜日、そしてシャワーを浴びている
カレンダーを捲ると、音を立てて破けてしまった
火曜日、一度考え始めると涙が止まらず
何度も何度も虚空に頭を下げて謝っている自分の姿を
遠くから眺めているのだった
*
何時からか、何処かで
何某かが点灯していた
信号機の赤のような淡い円形の光が
交差点の向こう側で青に切り替わる
同時に色を持たないエスティマが
目の前を、静かに通り過ぎていく
それを合図に、実体の無い影達が
一斉に午後の街を徘徊しはじめる
ゆっくりと徐行してきたタクシーを何気なく拾うと
運転手は行く先も聞かずに発車させた
一体どういうつもりなのだろう
ぼんやりと嫌な予感がしたので
一言告げてから降りようとした
「すみません、降ろしてください」
すると運転手は言った
「月曜日、が過ぎ去って久しいですね」
何もかも、言葉になっていない
*
ふと
目を開けて
手を伸ばし
明かりを点けて
カーテンも開けると
何もかも嘘のように思えた
夜空には静かに月が浮いていた
大きく息を吐き出して寝返りを打つ
さっきよりは落ち着いたのかもしれない
「月曜日が過ぎ去って久しいですね」
呪文のような意味の無い言葉を
何度も口の中で反芻していると
数人がカーテンの隙間を潜って
部屋に入ってきたのが分かった
「月曜日、が過ぎ去って久しいですね」
「ところで」
「明かりは消さなくて良いのですか」
「或いは」
「水曜日、八丁堀に」
「行けば分かります」
「触れてはいけない」
「ピンと張ったこの繊細な糸に」
「ところで」
「明かりは消さなくて良いのですか」
「絶対に触れてはいけない」
「或いは」
「明かりは消さなくて良いのですか」
「言葉になっていない」
「まるで言葉になっていないこの思考に」
…遠くから女の咽ぶ声が聞こえていた
「明かり…が怖い、消して…。…あれは…光ではない」
「絶対に触れてはいけない」
ところで
夢から目覚めることが出来ないまま
月曜日が過ぎ去って久しいのですが