ジオラマ
悠詩

ルージュを差してスクランブル交差点を闊歩する
マネキン
サングラス越しのレーザー光線が
斜めに風景を切り取る
溶けて秋風に癒される切り口は
ぼくには見えない

エナメルメッキを貼った乳房とくびれに
心臓の表面が焦がされる
あるいは地球儀を愛する数学者のような
最終定理も見いだせないまま

発情が吸い取られるのが恐くて
ノースリーブから生えた腕を折る
ひずみをつかさどる免疫酵素のような
地動説との一体感
マネキンと腕は
裏路地のゴミ箱へ
鯨袋に包んで
燃えないゴミ箱へ

ハイヒールの残したサイレンに
アスファルトから取調室が生えてくる

株価下落のせいで
カツどんも六法全書も入手困難で
インサイダー取引のせいで
警官も法律も消えかけて

殺人だけど
ま いっか
ホラ 裏で
取れたての
カテキンだ
ん? ああ
死刑ね ん
じゃそれで
さ 昼休み

嘯きのカケラが散り散りになり
未承諾広告に生まれ変わって
砂時計を破壊する


ジオラマの空白に
この鼓動を轟かせてやる
人を見たら人と思え
泥棒を見たら泥棒と思え
株主は養豚場を見たことがないと思え
胸に手を突き刺して心臓を引き抜く
少しだけ焦げた美味しそうなそれは
電子レンジで温めなければ
食べられた代物ではなかった

マネキンの切り取る風景が見えない
凍りついたジオラマの塊

   *   *

路地裏のゴミ箱に腐乱死体
鳴り響く悲鳴がブラウン管を駆け回り

消えていく


消していく
(誰が……?)


消えていく
(何が……?)


ジオラマの基盤を創った



この手






自由詩 ジオラマ Copyright 悠詩 2007-09-10 23:51:15
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