草花
北野つづみ
女の子が手をふる
「てっちゃんの、おかあさーん」
私はあの子の名前
知らないのに
顔と名前を覚えるのが苦手で
人に会うと、どきまぎしてしまう
間違ったらどうしましょう
それはまるで
あなたのことには
興味、関心がありませんのよ
知らずに告白しているようなもの
そんなときの私は
道端に生えている草花になりたい
草花なら
相手の名前を知らなくても
文句は言われないし
お互いに
いま、ここにある
ということだけ大切にする
春の
草花のような女の子が手をふる
私も静かに微笑んで
さわさわと手をふり返す
二〇〇七年六月十五日