断片
ピクルス

「並んだテールランプ
 漁り火のよう
 空はくれてやる」

「地味な色の饅頭は
 もういいや
 飴を噛んで夜を待つ」

「諦めの早い男
 高望みする女
 手を離せば知らない人
 滑稽なまま暮れてゆく」

「通い慣れた道のはずだった
 落陽に見惚れて
 未だ病院に着かない」

「柵だと思うから越えたくなる
 網には数限り無い世界が
 可能性を主張してる」

「黄昏は秘密を歌う
 未練も絶望もある
 明日呑む酒だけがない」

「金網の彼方と此方で行き交う
 ウェルシュコーギーの荒い息遣い」

「窓の数だけ
 朝のカーテンが翻る
 水面は新しい溜息を映す」

「怒っている人の眼は
 カナシク濁っている」

「飛行場にて見送った
 くわえた煙草に
 火を点けられないまま
 それから
 風が強くなった」

「夏野菜を籠いっぱい抱えて
 くすくす笑いながら
 町田の夜まで一枚
 切符を買いました」

「ひとつ、ふたつ、みつ、よっつ
 片手で持てる卵の数は
 どのくらい?」

「お洒落なディナーの席で
 君の椅子をひく
 そん時に必ずヘンな音がするんよ」

「茄子を描くのに飽きて漬物にした
 洗いながら口笛
 あとは
 冷えたビールを買いにいこう
 と云ってみるだけの給料前」

「夜更けに瓶を鳴らす隣の女
 明日は資源ゴミの日」

「古本屋に寄った帰り道はいつも
 サイレンとすれちがう」

「縁側で
 洗面器に水を溜めて月を映す
 ときおり揺らせながら酒を呑む」

「男は冬の駐車場に指輪を埋めた
 女は春の海に指輪を投げた」

「自分ではない誰かが考えてくれるだろう
 たとえば排水溝の行方について
 とりあえず顔を洗う」

「映画の仕事がしたい
 と綴って幾年月
 まだレジを叩いてます」

「夕暮れが一斉にサンダルを鳴らす祭りの日」

「その夜は
 僕が煙草を取り出すと
 君は皿を洗い始めた」

「猫舌なのでね
 冷めるのを待ちながら
 割箸で16ビート」

「夜を漕ぐ独りのおんなが
 口を開けている
 天井が軋んで
 我にかえるまでは」

「こぼれるように鳥が休む樹々から
 いっせいに朝が始まる約束だ」








未詩・独白 断片 Copyright ピクルス 2007-09-06 01:23:45
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