聾唖の少女
なかがわひろか
耳の聞こえない少女は
街中の人気者です
街の人たちは
人には言えない汚い言葉を
ここぞとばかりに少女にぶつけます
シンジマエ
アバズレバイタ
ジゴクヘオチロ
汚い言葉を言いはなった街の人たちは
とてもすっきりした顔になります
少女はそんな街の人たちの顔を見て
いつも嬉しそうににこにこしています
ある日隣の家に住むおばあさんが
少女を呼び止めました
お嬢ちゃん、きれいなお花をあげよう
そう言って
おばあさんは少女にきれいなバラの花をあげました
少女はとても喜びました
きいきいと声を出して
少女はとてもとても嬉しそうでした
おばあさんにもらったバラを胸に挿し
少女は街を歩きます
少女を見つけた街の人は
また少女に汚い言葉を投げかけます
ヤクタタズ
キジルシヤロウハ
アッチイケ
いつものようにすっきりした街の人を見て
少女はにこにことしていました
すると少女の胸に挿していた
バラの花が悲しそうにしおれています
おばあさんのくれたバラの花は
街の人の悪意に満ちた言葉を受けて
枯れてしまったのです
少女はとても悲しみました
きっと街の人たちが
良くない言葉をかけたのだわ
少女はそう思いました
少女は家の台所から
包丁を取り出して
街中の人を刺し殺していきました
少し心が痛みましたが
せっかくのバラを枯らしてしまった罰です
街中の人を殺し終えた後
少女は最後に残った隣のおばあさんの家を訪ねました
おばあさんは長い間病気を患っていて
ベッドに横になっていました
少女はおばあさんに
バラの花を枯らしてしまったことを
謝ろうと思いましたが
うまく言葉にできません
おばあさんは
優しく少女の手をとり言いました
私はもう長くない
ひと思いにその包丁で刺し殺しておくれ
少女はうまく動くことができませんでしたが
おばあさんは包丁を胸に当て
少女を抱きかかえるようにして
ぐっと胸に刺しました
おばあさんはしばらくのたうちまわった後に
息を引き取りました
死んでしまったおばあさんを見て
少女はとても悲しくなりました
少女はきっと自分はとても悪いことをしたのだと思いました
少女は包丁を自分の首に当て
そのまますうっと
切り裂きました
(「聾唖の少女」)