おおきな手と長い腕
佐々宝砂
彼は待っている、
おおきな手と長い腕をひろげて、
彼は待っている。
彼はひとつの特権を持っている、
おおきな手と長い腕をひろげて、
彼は特権を行使する。
しかしその特権をどんなに行使しても、
悲しむべき事態を防げないことはあるのだ。
彼はときに抗議したくなる、
不甲斐ないディフェンス陣に、
文句のひとつも言いたくなる、
それでも彼は、
再びおおきな手と長い腕をひろげる、
抗議のためにではなく、
攻撃のためにではなく、
ボールの行方を絶えずうかがいながら、
守るべき聖地にすっくと立つ。
(過去作、2002年のオリバー・カーンに捧ぐ)