えんぴつ
山中 烏流

机を叩く音が
緩やかに
固さを帯びていくための、
 
そのプロセスの一環として
私の右手の中には
シャープペンシルが
握られている
 
 
ランドセルの隅で
眠りについた幼さの欠片は
先端を
柔らかく尖らせたまま
沈む
 
短くなったスカートを
破り捨てた、あの日
私の右手から
幼さが滑り落ちたような
気がしている
 
 
ノートに染み込んだ
無数の黒鉛の跡を
なぞりながら歩いてみた
 
解けなかった数式
読めなかった漢字
今は容易だと笑えることに
少しだけ、泣いた
 
 
手のひらで転がる
成長、という二文字は
 
白紙のノートに
消えない線を刻むのだろう
 
 
シャープペンシルの
硬質な音が響く中
 
右手は、小さく震えていた。


自由詩 えんぴつ Copyright 山中 烏流 2007-09-01 07:32:13
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