静かなサーカス
塔野夏子
ある夜 街はずれの広場で
夜空を天幕がわりに
サーカスが催された
楽隊のない 静かなサーカスだ
曲芸師たちはみな骸骨
水晶のように無色透明なのや
黒曜石のように黒くつややかなのや
銀色のもいたし
仄青い光を放っているのもいた
それらのみごとな業を見ていると
楽隊がないにもかかわらず
どこからかえもいわれぬ優美な調べが
聴こえてくるかのようだった
集まった人々はただ声をのみ
ひたすらうっとりと見とれつづけた
そして誰ひとりわからなかった
空中ブランコはどこから吊られていたのか
綱わたりの綱はどこからどこへと張られていたのか
サーカスはいつのまにはじまり
そしていつのまに終わったのか