『理科室』
東雲 李葉

スポイトで吸った液をガラスに乗せ、顕微鏡で覗いた神秘の世界。
銀河の始まりもこんなに小さなものだったのだろうか。
サボテンの刺、蜘蛛の脚。命は先端にまで満ちていて。
髪の毛の先や爪の先まで欠けることなく生きている。


螺旋を巻くと機械の羽がはばたきだす。
剥き出しの鳥は軋んだ喉で歌い続ける。
虚しさから神様は自分で動ける僕らを作った。
寂しさから人は惑星から溢れるほどに物を作った。
繰り返し営まれる満たされることの無い連鎖。
僕らに作られた物達は今度は何を生み出すだろう。


時には誰かの命でさえ研究室のフラスコの中。
ゆらゆら揺れる赤、青、緑の綺麗な液体。
理科室での延長線上。光合成が支える生命と指先にまで伸びた血管。
異なる染色体の結合で今の僕らは作られている。


螺旋を左に緩めると機械の鳥の動きは止まる。
そろそろ油をささなくちゃ。喉の歯車取り出して。
虚しさから神様は自分を証明する僕らを作った。
寂しさから人は孤独を埋める永遠を求めた。
悲劇と呼ぶにはあまりに出来の悪い脚本。
寂しさを埋めた物の淋しさを今度は誰が埋めるのか。


ピンセットで細胞の核をつまみ出し、
何と何を掛け合わせて新しいものを作り出そう。
遥か遠く一億年後、人の消えた後の地球の、
簡素な設備の理科室で神様は作られているかも知れない。


自由詩 『理科室』 Copyright 東雲 李葉 2007-08-29 11:44:13
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