帰りの道の少女
千月 話子
コッペパンを3分の1
残して 思案する
枝豆とチーズを少し
小さい親指で ぎゅぎゅっ
と 押し込んで
可愛い子 口角が少し上がっているね
『よくできました』◎
「ちゃんと食べてよ」
班長に注意されたって
構わない 午後の楽しみ
赤いランドセル
銀の鈴の付いたやつ
遠くでカラスがうるさく鳴く
から 急いで走る
お姉ちゃんのお下がり
マグネットがあまくなってて
パカパカするよ
子馬みたいに飛び跳ねて
違う物になれるから
ちょっと 素敵
つぶつぶのたくさん付いた
お米の田んぼ
穂がお辞儀してるみたい
真っ直ぐな畦道
おじいちゃんが 言ってた
神様に ありがと ありがと
小走りの子馬 お辞儀しながら
教科書が 踊ってる
神様の口角が少し上がった?
午後3時
お寺に向かう階段の途中
座り込んで 口笛を吹く
斜めに居る太陽が
山の稜線に光映すのを
眺めながら ひゅるるるる
蝉の抜け殻が
さざ波のように折り重なって
夏は少しずつ 子供の手の平で
溶け出している みたい
コッペパンを3分の1
ランドセルから取り出して
小さくちぎって
空高く 放り上げる
高い木の枝から トンビ
美しい姿勢で風に乗り
掬うように食事する
くるる くるる
上空は 良い匂い
赤いランドセルが弾んで
銀の鈴が楽しく鳴って
小さい手の平は 空っぽ
ご馳走様 と手を合わせたら
空を旋回する トンビ
柔らかに降りて来て
くちばしで 鈴を鳴らす
ご馳走様 の合図
『今日も上手に出来ました』◎
名前は無いけど トンビ
仲良くなれて 嬉しい
誰にも言ったりしないから
高い 高い 空の上から
私を 見つけて
まあるく 回って