酸素の少ない我が脳内海洋はやや鉛色に近く
光源もなく海面の方角もわからず
足の向こうはるか彼方に海色の生命が消えてゆくのを
黙って見過ごす
生命の気配に希薄だ
伸ばしきって1メートルに満たない腕は
空よりも高い無限度を測るに恰好の物差しだが
おそらくここは
地球上で唯一宇宙を知れる場所と思料する
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
月から地球を眺めていると
帰りたくなる
月が地球の衛星軌道上から離れないことがわかっていても
一刻も早く帰りたくなる
それから、
アクエリアスだとか
じゃがりこだとか
顔も知らない誰かが作った
あからさまな人造食品を
しみじみ味わいたくなる
どうのた打ち回ったって
月面にセブンイレブンはない
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
日常は
オフィスの机の上で
ビチビチ跳ねているだけの魚で
過干渉な生命の息吹は先鋭的にだがありふれていて
遠当てを食らわない程度の間合いで
過呼吸にならないために神経をすり減らす
帰還欲はない
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
酸素の少ない我が脳内海洋は
はるか彼方より海色のマンボウが近づいてくる
空よりも深い無限度を
短い両腕で感じ取ったらば
そこに到れない己を自覚し
そこよりきたるマンボウの額を撫で
海面を見上げる
帰る方角はわかっている
気泡が上っていく方角に泳げばいい