Q
水町綜助

 Quartz
 震えて
 終わりと
 始まりのないものを
 区切っていく
 切り刻んで
 数をあてる
 なにものとも
 名づけられない筈の
 私より薄くて
 鉄も
 昼夜をも含むもの


   *


 眩しかったので
 目を細めました
 ある明るい夕方に
 夏の中でした
 玄関口に座って
 日が暮れるほどに
 軒先の電燈が
 赤みを増してゆくのを
 ぼんやりと見ていました
 つるしたあかりに
 照らされたひさし
 外に広がる夕空が
 やけに青くって

 椿の生け垣を透かして
 靴音が聞こえてきます
 革の靴底の音です
 そんな雨のにおいのする足音と
 咳払いがひとつ
 死んだ父が
 勤めから帰ってきたようです
 アイスクリームを買って


   *


 水晶がふるえて
 すべてを小刻みに分かつ
 すべてとはすべてをも含むすべてで
 しかし、ただ、
 漂って来た
 この、
 ないまぜの
 スープのことだ


 ”
  震えて
  いるのを
  逆さにして
  みよう
 
  こんなふうに
  もどらないか
 
  震えて
  いるのを
  映して
  みよう
  鏡に
 
  ほう
  あの赤い鉄橋を
  越えた町だ
  わかたれて
  飛ぶ
         “

 
 ちりちりと
 水晶がふるえる
 ぶれて
 速く
 とても

 やがて
 ヂンヂンと
 聞こえるくらいに
 速まって
 あたりかまわず
 きらの細片を振りまいて
 突き刺すほどに
 欠き切って
 破くから
 つないで
 ください
 まだ青く
 澄んでいた
 今より明るい
 午後七時に
 順序よく
 並べ立てられてゆく
 残像の先に
 立たされている
 わたしの
 おだやかさに
 おそれの無かった
 日に

 そのわずかな誤差を
  まだしらなかった









自由詩 Q Copyright 水町綜助 2007-08-27 14:09:04
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