熱帯夜の夢
渡 ひろこ
ジリジリと太陽が
アスファルトに焦がれる思いを
告げる午後二時の
濃い影がさす
向こうには
枯れてしまったシクラメン
欠けてしまったクリスタルの花瓶
半分腐りかけの林檎
止まったままの掛け時計
退廃を詩う
日常の愛しきガラクタたち
堕ちていく時の流れは
もう 手のひらでは
掬えなくて
目隠しした良心に
暗闇の喪服を着せ
したたかな企みに
艶やかなベルベットの
背徳のドレスを纏わせる
吐息ひとつで
甘い幻想の香水を
ふりまいて
今宵も仮想舞踏会
やわらかい微笑みの裏
鋭利なナイフ
そっと後ろ手に
爛れた心をえぐり取る
熱帯夜の夢
背徳の香りに
眠れぬ夜の
ラビリンスは深く