ロダンの煙草
服部 剛

浜辺には
夕陽に淡く染められた
煙草が2本寝そべり

1本はまっすぐ横たわり
笑って空を仰いでいた

もう1本は砂にねじこめられた傾きで
しょげていた

あの日君が
「棄てちゃダメだよ」と言っていた
シャツの手首についていた
紅いボタンを僕はもぎ
夜の白い波間に放り投げた

あの日僕は
「わかっておくれよ」と友情を乞うては
君のかけたサングラスの奥に
ぼやけた本音をつかめぬまま
いくつものボタンを掛け違えた
自分の姿も見えぬまま
ロダンのうつむきで
夜の浜辺に一人腰を下ろしていた

波音は沁み入るように傷口を洗った

時折砂を巻き上げる海風の中で
危うく揺れるライターの炎を手で囲い
指に挟んだ逆さ煙草に小さい火をつける

ぎこちない着心地のシャツを身にまとう
しおれた背中は
口元から細い煙をくゆらせ
浜辺で膝を抱えたまま

潮騒に包まれ

遠のいてゆく

あの日の

面影





  


自由詩 ロダンの煙草 Copyright 服部 剛 2004-05-27 16:20:00
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