連鶴
悠詩
折鶴の
誰に習ひしか忘れしも
右手と
左手に刻まれし
貴なる鳥の影形
盲となりぬこの身にや
神の言の葉聞こえざる
葉月萌ゆ
井戸の香りの涼やかに
右手と
左手にいさよひし
釣瓶えならず
濡ちども
いと稀有なりき日の影に
この身と共に
爆ぜ逝けり
鶴の哭く
刹那も無くに
鶴の無く
時の溶け
時の疾く溶け
穢土の床
闇止まぬ
闇病み窶る
火箭の魔来
轟々と
轟々と
朦々と
朦々と
葉月燃ゆ
鶴脛燻る幼子の
右手と
左手にその母を
求め煉獄うつ伏せど
心形ぞありがたく
千々に千切れて飛び散れり
蘇る
光捉へし兵隊の
馬手と
弓手に鶴嘴を
持ちて墓場を拵へる
現の奈落埋め尽くす
骸の
御霊煤となる
叢雲を
睨まひて足踏み出だす
業火を吐きて去り行くは
忌みじくも飛ぶ鉄の鶴
物の怪放つ一声に
貴なる煤や
徒となる
鉄の鶴
誰に習ひしか忘れしも
馬手と
弓手に刻まれし
忌々しき鳥の影形
盲となりぬ心にや
神の言の葉聞こえける
階を
登れど
現の冥府なり
右手と
左手の爛れしに
黒き大地と黒き雨
蛍ぞと飲み喉満つる
くちなはを飼ひ胸果つる
神無月
いといとほしき唇と
右手と
左手の結ばれし
連鶴忘れ給ひしか
数多の
御霊奪ひたる
人作りしこそ神ならむ
神在月
か弱き紙を仕立てつる
右手と
左手ぞ
聖なる
紙信ずるも裏切るも
そのくちなはと語らはば
明かし
理いらへらむ
有明の
月より
現名残り惜し
馬手と
弓手の
咎をこそ
月に掲げさせまほしけれ
首吊る人の朽つ人の
縁に罪を被せしか
暁に
芽吹きし鶴の羽開け
右手と
左手に掲げしは
もぬけの重き棺なり
千羽重なる鶴の群れ
されど瞳は重ならず
友は隣にこそありけれ
この思ひ
永遠に果つるはなかりけり
連鶴の
誰に習ひしか忘れしも
右手と
左手に刻まれし
貴なる鳥の影形
大地に萌ゆる命にや
神の言の葉聞こえざる
鶴の教へや忘れつる